アキレス腱断裂
アキレス腱断裂は、スポーツ活動中に多く発生する重度の外傷であり、特にトップアスリートでは治療後もパフォーマンスが回復せず、引退に至るケースもあります。そのため、早期の正確な診断と適切な治療が非常に重要です。
受傷時には突然、足首後方に強い痛みを感じ、「ブチッと音がした」「後ろから蹴られた」「バットで殴られたような衝撃」などと表現されることが多いのも特徴です。受傷直後は痛みで体重をかけられず歩行困難になりますが、時間が経つと歩けるようになる場合もあります。また、つま先立ちができなくなることが典型的な症状として現れます。
スポーツ復帰までに6ヶ月ほどかかります。保存療法よりも手術をしたほうが1ヶ月ほど早くスポーツに復帰できます。
症状
- 受傷時のふくらはぎを強く叩かれた感覚
- 受傷時の「ブチッ」「バチッ」といった破裂音
- ふくらはぎからかかと後方の痛み
- アキレス腱の周りが全体的に腫れている
- アキレス腱が凹んでいる
- 脚に力が入らない
- 断裂した側の脚に体重をかけられない
- つま先立ちができない
- しばらくすると歩行が可能になる
原因
- 十分なウォーミングアップやストレッチを行わない
- 急激な動作や過度な負荷がアキレス腱に加わる
- 腱の柔軟性の低下
- オーバーユース
治療
①保存療法
- アイシング&湿布
- 薬物療法…湿布や痛み止めの内服、ステロイドなどの注射で痛みや腫れ、患部への負荷を抑えます
- 物理療法 …機器による温熱や、電気的な刺激を利用して痛みや炎症を抑える治療法で、温熱療法と寒冷療法があります。温熱療法では患部を温めることで血行を良くし、回復の活性化を図ります。寒冷療法は、アイシングなどで患部を冷やして痛みを和らげる方法です
- 運動療法 …痛みが酷くないようであれば、患部をサポートする機能を強化しながら治療していく運動療法が効果的です。医師や理学療法士など、専門家の指示を仰ぎながら行うことが大切です
- 運動器カテーテル治療…カテーテルを痛みの原因である血管がある場所の近くで抗生物質でできた薬剤を注入し、もやもや血管を死滅させます
- 体外衝撃波治療…衝撃波を患部に照射することで慢性的な痛みの軽減、組織の再生を促します
- PRP療法…採取した血液を抽出加工して作るRPP(多血小板血漿)を、患部に注射する治療です。PRPに含まれる成長因子が、傷ついた組織の修復を促進します
- 超音波療法…超音波の振動を利用した施術で、血行の改善や炎症の軽減、疼痛の緩和、組織の伸展性向上、治癒力向上などの効果が期待できます
- その他…足の形状や歩行スタイルに応じたインソールを使用することで、アキレス腱への負担を軽減します
②手術療法
保存療法で改善しない場合は、手術が検討されることがあります。手術では損傷したアキレス腱の修復や取り除きが行われます。様々な縫合方法があり、患者さんの年齢層や競技種目などで選択します
整形外科で治療を受ける
まずは整形外科で診断を受けましょう。
軽度の痛み以上の症状がある場合は、レントゲンやMRIなど精密検査を行い、医師の診断を受けることが重要です。正しい治療・リハビリを受けずにいると受傷した箇所は正しく治癒せず、可動域の低下・関節の不安定さが残り、結果としてより悪化を繰り返してしまいます。
接骨院、整骨院で治療を受ける
接骨院、整骨院で治療を受けることで早期回復を促すことができます。症状の解消だけではなく、体全体のバランスを見て原因を追及するため、体全体の不調を取り除くことができます。
また、関連する筋肉の柔軟性を高める為にそれらの筋肉をほぐす手技や、電療機器を使った施術を行います。急性期の症状が改善した後、患部のトレーニングを行いバランスよく筋肉をつけ、テーピングなどを行い再発防止につとめます。
RICE処置
安静(Rest)
損傷部を中心に動かないように包帯などで固定します。安静は局所のみならず全身的なものも含み、体内の循環が活発にならないようにします。
冷却(Ice)
患部を冷やすことで血管が収縮し血流を減少させ内出血を抑えます。さらに、患部周囲の組織の代謝を低下させることにより炎症を抑えることができます。1回のアイシングの時間としては15分〜20分が目安です。ただし、凍傷には十分注意してください。
圧迫(Compression)
患部を包帯やサポーターまたはテーピングなどで圧迫することにより内出血による腫れを抑えます。
挙上(Elevation)
患部を心臓よりも高い位置に上げることにより血液の環流を助けたり、局所の内出血を抑えます。
アイシング
急性期(怪我や損傷の直後から3日間)に患部を冷却することで炎症による痛みや腫れ、熱感を軽減し、症状悪化を防ぐ方法です。特に急性の症状である熱を持った痛みに対して効果的です。
アイシングは、氷嚢やを使って患部を冷やし、前述の炎症による痛みや腫れ、熱感の軽減を目指すと同時に、これらの症状悪化を防ぐことを目的としています。
- 氷水を入れる袋1つを用意します
- 氷水を袋に入れて氷嚢を作ります
- 患部に氷嚢をのせて20分間冷やします
- 20分後、タオルと氷嚢を患部から離し、体温が自然に元に戻るのを待ちます。
- 2時間おきに1〜4を行います。
ここまでを1セットとし、1日に2~3セットを3日間行ってください。
アキレス腱断裂から早期復帰するために
1. 大至急アイシング・RICE処置を行う
痛めてからどれくらいの時間が経過したか、アイシングしていた時間、RICE処置していたかによって治る期間も変わってきます。
アキレス腱に痛みを感じたら、大至急アイシング、RICE処置を行ってください。そうすることで、炎症、腫れや内出血を最小限に抑え、筋肉の修復を促し、結果的に全治までの期間も短縮できます。
ただし、アイシング・RICE処置は、痛めた直後から4日目以降も続けると、かえって逆効果になる可能性があります。一般的に痛めた直後から3日間と言われていますが、アイシングの期間は医師に相談しましょう。
RICE処置、アイシング
2. すぐに病院へ行き、適切な治療を受ける
すぐに治療を受けないと重症化する可能性が高いです。重症化することで治療期間が何ヶ月も長引いてしまいます。
また、適切な治療を受けることも重要です。適切な治療が受けられていなければいつまで経っても良くなりません。ある病院では、痛みが引くまで経過観察というが一向に良くならず。別の病院では、骨にも異常が見つかり固定をしないと治らないということが判明。このようなケースは実際にあるので、一向に良くならない場合は別の病院に診断してもらいましょう。特に足の専門医、または得意とする病院やスポーツ整形外科へ行くことを強くお勧めします。
3. 手術を選択
手術をすることで、保存療法よりも1ヶ月ほど早く治ります。早期にリハビリを開始できるため、筋力低下や可動域制限を最小限に抑えることができます。
また、再断裂のリスクも低く抑えることができます。
4. 早期リハビリテーション
術後または固定期間終了後、早めに足首の可動域訓練や、軽い筋力トレーニングを開始することが大切です。
アキレス腱断裂後、足首の筋肉はすぐ使えなくなるため、筋力低下が起こります。また、足首が固定されるため、関節が固まり、可動域が制限されてしまいます。筋力と可動域の低下を最小限に抑え、回復・筋力強化させることがスポーツへの早期復帰の鍵となるため、早い段階から積極的にリハビリや筋力トレーニングを行いましょう。
ただし、一つ一つのリハビリやトレーニングを医師と相談してから行わないと、悪化する恐れもあるため注意してください。
5. 日上生活でできる怪我の回復を早める方法
- 睡眠を7時間以上とる
- 湯船に毎日浸かる。ただし急性期(怪我の直後から3日間)は浸かってはいけない。炎症が悪化します
- 水を1日に2~3ℓ飲む
6. アキレス腱やふくらばぎ・足首・足裏・もも裏・お尻・股関節の可動域・柔軟性の向上
固くなった筋肉や腱を柔らかくすることで、血流が良くなり、回復物質や酸素が届きやすくなり、回復を早めることができます。
アキレス腱炎では、アキレス腱やふくらはぎ(下腿三頭筋→腓腹筋・ヒラメ筋)を中心に、足全体の可動域と柔軟性を向上させることが重要です。
これらの部位を柔らかくすることで、歩行や走行、ジャンプなどの動作時にアキレス腱への負担を和らげます。特にふくらはぎ・足首・足裏の可動域・柔軟性は、アキレス腱に直接繋がっているためとても重要です。この3つの部位を柔らかくすることで、かかとの骨についている部分への強い張りを緩めることができます。
もも裏(ハムストリング)は、アキレス腱炎に重要なふくらはぎと連動しているため、柔らかいとふくらはぎが固くなるの防ぎます。お尻はもも裏と連動しています。
股関節の可動域と柔軟性は、下半身全体の動作をスムーズにし、アキレス腱への負担を和らげます。
これらのことから、全体の連動性を高め、アキレス腱への局所的なストレスを減らすためにも、柔軟性・可動域改善は欠かせません。
7. ふくらばぎ・足首・足裏・もも裏・お尻・股関節の筋力強化
筋肉のポンプ作用で血流が改善され、回復物質や酸素が届きやすくなり、回復を早めることができます。
また、6.で説明したように、ふくらばぎ・足首・足裏・もも裏・お尻・股関節は、アキレス腱へ直接または間接的に繋がっています。これらの筋肉を強化することで、アキレス腱の強化・アキレス腱への負担を分散・関節の安定性の向上・下半身の動作をスムーズにすることができ、アキレス腱炎の症状を和らげ、回復を早めることができます。
8. 先進医療を受ける
「治療」の①保存療法で紹介した、下記の治療法は、ほとんどが保険適用外のため高額ですが、早期回復のために高い効果があります。先進医療を受けることで、 1〜2ヶ月ほど復帰時期が短縮されたという報告もあります。ぜひ検討してみてください。
- 運動器カテーテル治療
- 体外衝撃波治療
- PRP療法
- 超音波療法
- 再生医療
アキレス腱断裂からの早期復帰
プログラム6選
①マッサージ
マッサージで筋肉の張り、緊張状態を和らげることで血液の流れを良くし、回復を早めることができます。患部の周辺や関連するところを軽くもむ程度で痛みを抑えることができ、筋肉と関節の動きが良くなります。お風呂上がりにすると、固まった筋肉が柔らかくなりより効果的です。痛む箇所は避けるようにしましょう。
ただし、マッサージの開始時期よりも前に行うと再断裂や悪化の恐れがあります。
必ず医師に、一つ一つのメニューの開始時期の確認と、許可を得てから行ってください。
簡単にできるアキレス腱マッサージ!
痛みと可動域改善 4:47から始まります
痛み改善のケア 1:42から始まります
自宅で治す為のマッサージ方法 2:37から始まります
②ストレッチ
アキレス腱に連なる足首やふくらはぎなどのストレッチをすることで、可動域の確保、血流が改善し疲労が軽減されるため競技のパフォーマンスも向上します。お風呂上がりにすると、固まった筋肉が柔らかくなりより効果的です。
ただし、マッサージの開始時期よりも前に行うと再断裂や悪化の恐れがあります。
必ず医師に、一つ一つのメニューの開始時期の確認と、許可を得てから行ってください。
1日8分可動域練習セルフエクササイズ
アキレス腱炎のストレッチ 0:57から始まります
足首のストレッチ
③筋力トレーニング
一般的に結合組織が柔らかい人は、靭帯などの張りが不足し、怪我をしやすくなることがあります。つまり、筋肉を鍛えることが重要なのです。筋肉を鍛えることで体への負担を減らす上に、血流を良くすることで患部の状態が良くなりやすく、競技へのパフォーマンスも向上します。
また、足首周りを鍛えるだけでなく足指やふくらはぎ、太もも、お尻など体重がかかったときにアキレス腱の働きを補助する筋肉を鍛えることも重要です。
ただし、筋トレの開始時期よりも前に行うと再断裂や悪化の恐れがあります。
必ず医師に、一つ一つのメニューの開始時期の確認と、許可を得てから行ってください。
正しいタオルギャザー 6:44から始まります
10回たぐり寄せます。3セット行います。
慣れてくるとタオルの先端に重しをのせるとより効果的です。
ふくらはぎの筋トレ【2分間】
【地獄の6分】地獄の下半身トレーニング
立ったままおしりの筋トレ【8分間】
体幹トレーニング
ここからは体幹を中心とした筋力トレーニングです。体幹とは、頭と手足を除いた胴体(背、腹まわり)のことです。高いパフォーマンスを発揮するためには全身の力を連動させ、ロスなく全身に伝えることです。ただし、体幹が強いけど、動きが出ない選手はパフォーマンスに繋がりません。そのため、「柔軟性」と「強さ」が両立している体幹を作ることが必要です。体幹トレーニングは体幹の動き作り(ストレッチなど)とセットが鉄則です。この両立した体幹を向上させることで、下記の効果があります。
- 全身の動きを安定化させダッシュスピードが上がる
- ジャンプ力、バランス力がが上がる
- 身体のコントロールがよくなることで、ボールコントロールやプレーの精度が上がる
- 全身が安定しボールに力を伝えやすいため、シュート力・成功率が上がる
- リバウンドやポストプレーなどで当たり負けしない
- 姿勢の改善により、呼吸がしやすくなり、持久力が上がる
- 転倒・接触による怪我や肉離れを予防する
- トレーニングの効率を高める
体幹を中心とした、様々な筋肉を鍛えることで復帰後のパフォーマンスアップのために頑張りましょう!
※患部に痛みが出る場合はすぐに止めてください
3分体幹ストレッチ
体幹多軸ストレッチ
カリーのスキルコーチ直伝!体幹トレーニング7選
ボールを使った5分間の体幹トレーニング
④バスケトレーニング
ここからは怪我をしていてもできるバスケトレーニングです。ここで覚えていただきたい言葉が「患部外トレーニング」です。
患部外トレーニングとは、怪我している部位以外のトレーニングを行うことです。怪我をしている間でも動かせる部位で練習を行うことで、復帰をスムーズにすることができます。また、怪我をしているときにこそ強化できる部分があったり、新たなステップアップや、今まで気づかなかった新たな発見があるものです。
復帰後のパフォーマンスアップのために頑張りましょう!
※無理はしないでください
※患部に痛みが出る場合はすぐに止めてください
椅子に座ってできるドリブル・ハンドリング練習!!
⑤心肺機能(体力)トレーニング
怪我をして1ヶ月休養すると、以前の心肺機能(体力)を取り戻すのに1~2ヶ月かかると言われています。早期復帰を目指す人にとってこの期間は痛手です。心肺機能が低下すると、体内の酸素量が低下しパフォーマンスの低下、心拍出力の低下によりすぐ疲れやすくなります。そのため足を怪我していてもできる心肺機能トレーニングをすることで、早期復帰を目指し、怪我前よりもレベルアップした体を手に入れましょう!
※痛みが出る場合はすぐに止めてください
エアロバイク
エアロバイクは怪我によって走れない方でも、安全に太ももやお尻の筋肉、心肺機能(体力)を鍛えられます。自宅にエアロバイクがあるという方はなかなかいないはずなので、ジムなどで利用する時には毎回足の位置やサドルの位置を確認しておきましょう。正しい位置を知りたい時には管理人さんなどに聞くのが一番。間違った位置で行ってしまうと、足への負担が大きくなってしまいます。以下が具体的なメニューです。
- 400mインターバル走を想定
60秒 × 10セット リカバリー45秒
- 1000mインターバル走を想定
180秒 × 5セット リカバリー60秒
ペダルの重さについては、脈拍が170程度まで上がる重さに設定してください
水泳
水泳は全身運動のため、全身の筋肉、心肺機能を鍛えることができます。また、水圧の力でマッサージ効果もあり、疲労の回復にも役立ちます。足が痛い場合は、足にビート板を挟んで手だけで前に進むようにすれば、効果があります。アスリートもプールトレーニングを活用しているので、非常に有効です。以下が具体的なメニューです。
- クロールで25m
10本〜30本ペース リカバリー30秒
- クロールで50m
5本〜15本ペース リカバリー60秒
目安は8〜9割の力で泳いでください。設定タイムを決めてもいいでしょう。
⑥メンタル
スポーツの世界で優れたパフォーマンスを発揮するためには、メンタル(心)を鍛えることが当たり前になっており、リハビリ時期でも同じことがいえます。リハビリをより効果的に・迅速に復帰する・ケガをする前以上のパフォーマンスのために頑張っていきましょう!