椎間板ヘルニア
椎間板は、背骨に加わる衝撃を緩和するクッションの役割をしています。椎間板は真ん中にゼリー状の髄核(ずいかく)と呼ばれるものがあり、その髄核が外に飛び出してくることを椎間板ヘルニアと言います。椎椎間板ヘルニアになると、腰やお尻、脚に痛みや痺れが出現します。
バレーと椎間板ヘルニアは密接な関係があり、バレーの動作、特にレシーブやディグなどのときの中腰姿勢は、椎間板に大きな負担をかけ、椎間板ヘルニアのリスクを高めます。
また、椎椎間板ヘルニアを放置していると、椎間板内の水分がなくなっていき、椎間板が薄くなり潰れた状態になります。それによって、脊柱管狭窄症、すべり症などのリスクが高まり、治りがより遅くなります。
スポーツ復帰までに、軽度であれば1~2ヶ月程度、中等度で2~4ヶ月程度、重度で3~6ヶ月程度かかります。また、保存療法で症状が改善しない場合や重度の神経症状がある場合は、手術が必要です。
症状
- 腰を曲げたり、重いものを持ち上げたりするときに痛い
- お尻から太もも、ふくらはぎ、足、すねの外側や足の甲などに痛みやしびれが広がる
- 足の感覚が鈍い
- 歩行や立ち上がりが難しい
- 腰を反らすと痛みが強くなる、咳やくしゃみで痛みが悪化する
- 足の筋肉が弱くなり、歩きにくくなる
- 歩くと足が痺れて歩けなくなるが、休むとまた歩けるようになる
- 尿が出にくい、便が出にくい、または失禁してしまうことがある
原因
- レシーブやディグなどのときの中腰姿勢
- サーブやアタックなどの腰を反ったり捻ったりする動作
- 股関節が硬いことにより、腰で代償しようとして腰への負担が増加
- 体幹(特に背筋)が弱い
- 胸椎の柔軟性が低く、ひねる動作で腰に負担がかかる
- フォームが悪く、特定の部位に負担がかかる
治療
①保存療法
- アイシング&湿布
- 薬物療法…湿布や痛み止め・消炎鎮痛剤の内服や、神経ブロック注射・ヒアルロン酸注射で痛みや腫れを抑え、回復を促します
- 装具療法…患部を固定し、自然治癒を促す治療法です。コルセットやサポーターなどで固定し、安静を保つことで、回復を促します
- 牽引療法…腰や首を機械で引っ張ることで、椎間板への圧迫を軽減し、神経の圧迫を和らげる効果が期待できます
- 物理療法 …機器による温熱や、電気的な刺激を利用して痛みや炎症を抑える治療法で、温熱療法と寒冷療法があります。温熱療法では患部を温めることで血行を良くし、回復の活性化を図ります。寒冷療法は、アイシングなどで患部を冷やして痛みを和らげる方法です
- 運動療法 …痛みが酷くないようであれば、患部をサポートする機能を強化しながら治療していく運動療法が効果的です。医師や理学療法士など、専門家の指示を仰ぎながら行うことが大切です
- 運動器カテーテル治療…カテーテルを痛みの原因である血管がある場所の近くで抗生物質でできた薬剤を注入し、もやもや血管を死滅させます
- 体外衝撃波治療…衝撃波を患部に照射することで慢性的な痛みの軽減、組織の再生を促します
- 超音波療法…超音波の振動を利用した施術で、血行の改善や炎症の軽減、疼痛の緩和、組織の伸展性向上、治癒力向上などの効果が期待できます
- PRP療法…採取した血液を抽出加工して作るRPP(多血小板血漿)を、患部に注射する治療です。PRPに含まれる成長因子が、傷ついた組織の修復を促進します
- 再生医療…自己組織を材料とし、失った組織・臓器の機能回復が期待出来る先進的な治療法です。体に負担が少なく、手術に比べて治癒までの期間が短く済むことや、痛みの根本的治療にもなり得ると考えられています
②手術療法
保存療法で症状が改善しない場合や、重度の神経症状がある場合は手術が必要です。
また、患部の状態によっては手術をしたほうが早くスポーツ復帰できることもあるため、医師と相談して最適な判断をしましょう。
手術は大きく分けて3つあります。
- 内視鏡を利用し、ヘルニアを摘出することで神経の圧迫を取り除く
- 椎間板内にレーザーを照射し、椎間板の一部分を蒸発させ椎間板内を縮ませることでヘルニアを縮小させ神経の圧迫を弱める
- 椎間板内に酵素を含んだ薬剤を注入することで椎間板の組成が変化しヘルニアが縮小することで神経の圧迫を弱める
他にも種類はありますが、上記が体への負担が少ない代表的な手術です。
整形外科で治療を受ける
まずは、すぐに整形外科で診断を受けましょう。
軽度の痛み以上の症状がある場合は、レントゲンやMRIなど精密検査を行い、医師の診断を受けることが重要です。正しい治療・リハビリを受けずにいると受傷した箇所は正しく治癒せず、可動域の低下・関節の不安定さが残り、結果としてより悪化を繰り返してしまいます。
接骨院、整骨院で治療を受ける
接骨院、整骨院で治療を受けることで早期回復を促すことができます。症状の解消だけではなく、体全体のバランスを見て原因を追及するため、体全体の不調を取り除くことができます。
また、関連する筋肉の柔軟性を高める為にそれらの筋肉をほぐす手技や、電療機器を使った施術を行います。
RICE処置
安静(Rest)
損傷部を中心に動かないように包帯などで固定します。安静は局所のみならず全身的なものも含み、体内の循環が活発にならないようにします。
冷却(Ice)
患部を冷やすことで血管が収縮し血流を減少させ内出血を抑えます。さらに、患部周囲の組織の代謝を低下させることにより炎症を抑えることができます。1回のアイシングの時間としては15分〜20分が目安です。ただし、凍傷には十分注意してください。
圧迫(Compression)
患部を包帯やサポーターまたはテーピングなどで圧迫することにより内出血による腫れを抑えます。
挙上(Elevation)
患部を心臓よりも高い位置に上げることにより血液の環流を助けたり、局所の内出血を抑えます。
アイシング
急性期(怪我や損傷の直後から3日間)に患部を冷却することで炎症による痛みや腫れ、熱感を軽減し、症状悪化を防ぐ方法です。特に急性の症状である熱を持った痛みに対して効果的です。
アイシングは、氷嚢やを使って患部を冷やし、前述の炎症による痛みや腫れ、熱感の軽減を目指すと同時に、これらの症状悪化を防ぐことを目的としています。
- 氷水を入れる袋1つを用意します
- 氷水を袋に入れて氷嚢を作ります
- 患部に氷嚢をのせて20分間冷やします
- 20分後、タオルと氷嚢を患部から離し、体温が自然に元に戻るのを待ちます。
- 2時間おきに1〜4を行います。
ここまでを1セットとし、1日に2~3セットを3日間行ってください。
椎間板ヘルニアから早期復帰するために
1. 大至急アイシング・RICE処置を行う
痛めてからどれくらいの時間が経過したか、アイシングしていた時間、RICE処置していたかによって治る期間も変わってきます。
腰を痛めたと思ったら、大至急アイシング、RICE処置を行ってください。そうすることで、炎症、腫れや内出血を最小限に抑え、筋肉の修復を促し、結果的に全治までの期間も短縮できます。
ただし、アイシング・RICE処置は、痛めた直後から4日目以降も続けると、かえって逆効果になる可能性があります。一般的に痛めた直後から3日間と言われていますが、アイシングの期間は医師に相談しましょう。
RICE処置、アイシング
2. すぐに病院へ行き、適切な治療を受ける
すぐに治療を受けないと重症化する可能性が高いです。重症化することで治療期間が何ヶ月も長引いてしまいます。
また、適切な治療を受けることも重要です。適切な治療が受けられていなければいつまで経っても良くなりません。ある病院では、痛みが引くまで経過観察という提案が一向に良くならず。別の病院では、骨にも異常があるということが判明。このようなケースは実際にあるので、一向に良くならない場合は別の病院に診断してもらいましょう。特に腰の専門医、または得意とする病院やスポーツ整形外科へ行くことを強くお勧めします。
3. 痛みのない範囲で適度な運動やストレッチ
運動不足になると、腰を支える筋肉(体幹やお尻や太もも)が弱くなり、椎間板への負担が増加してしまいます。適度な運動を行うと筋肉を鍛え、腰の安定性を高められます。また、血行が良くなるため、痛みの軽減・自然治癒を促し早期回復が期待できます。
自転車…ペダルをこぐ動作は、お尻・下半身の筋力を強化するとともに、骨盤の角度の矯正が期待できます。ペダルをこぐ際に膝が伸びきらないようにサドルの高さを調整するのがポイントです。
自転車トレーニング
水泳…水泳では浮力が働くため、身体に無理な力をかけることなく、筋力だけでなく、心肺機能を高める効果が期待できます。「週に2~3回、20~30分」の水泳が理想的です。腰に痛みがある場合でも、取り組みやすい運動です。
全身をバランスよく鍛える泳法として、クロールや背泳ぎがおすすめです。
水泳トレーニング
ストレッチでも、特に腰や太もも周りの筋肉を伸ばすことで、痛みの軽減・自然治癒を促し早期回復が期待できます。
椎間板ヘルニアは、運動やストレッチをしながら治しましょう。
4. 体幹を中心としたトレーニング(筋力、柔軟性)
椎間板ヘルニアの症状を改善するために、体幹トレーニングは非常に効果的です。体幹を鍛える(特に背中)ことで、背骨を支える力が強くなり、椎間板への負担を軽減することができます。さらに、姿勢の改善や血行促進、痛みの軽減にもつながります。
また、体幹の柔軟性も同じく症状の改善に期待できるため、筋力だけでなく柔軟性を向上させることが重要です。
元サッカー日本代表の長友佑都選手は、明治大学時代に椎間板ヘルニアと腰椎分離症を患い、体幹トレーニングで症状を改善させました。
さらに、体幹は腰痛の改善だけでなく、バレーの競技パフォーマンスを向上させるためにも非常に重要なため、頑張って取り組みましょう!
5. 全身の柔軟性
全身の柔軟性を向上させることで、症状の改善・再発防止になります。
また、体幹の柔軟性も同じく症状の改善に期待できるため、筋力だけでなく柔軟性を向上させることが重要です。
柔軟性の向上といっても腰だけではありません。体幹はもちろんのこと、足やお尻、特に股関節が症状の改善に重要です。股関節は骨盤の関節なので、股関節の柔軟性が低いとその上にある腰が代わりに働きます。 股関節の動きが悪くなると、その動かない分を腰の動きでカバーしようとし、腰への負担が大きくなるため、股関節の柔軟性を高めることで腰への負担が分散され、症状の改善に繋がります。
また、柔軟性が低下しているせいで悪い投球・打撃フォームになっていることもあるので、マッサージやストレッチで全身の柔軟性を向上させましょう。
6. 先進医療を受ける
「治療」の①保存療法で紹介した、下記の治療法は、ほとんどが保険適用外のため高額ですが、早期回復のために高い効果があります。先進医療を受けることで、 0.5〜2ヶ月ほど復帰時期が短縮されたという報告もあります。ぜひ検討してみてください。
- 運動器カテーテル治療
- 体外衝撃波治療
- PRP療法
- 超音波療法
- 再生医療
7. 手術の選択
手術をすることで、保存療法よりも早くスポーツ復帰できる傾向があります。
ただし、患部の状態などにより変わってくるため、医師と相談して最適な判断をしましょう。
③筋力トレーニング
筋肉が弱いと靭帯の張力が不足し、怪我をしやすくなることがあるので、筋肉を鍛えることは重要です。筋肉を鍛えることで体への負担を減らす上に、血流を良くすることで患部の状態が良くなりやすく、競技へのパフォーマンスも向上します。
ただし、筋トレの開始時期よりも前に行うと悪化の恐れがあります。
必ず医師に、一つ一つのメニューの開始時期の確認と、許可を得てから行ってください。
また、患部に痛みを感じたらすぐ中止してください。
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体幹トレーニング
ここからは体幹を中心とした筋力トレーニングです。体幹とは、頭と手足を除いた胴体(背、腹まわり)のことです。高いパフォーマンスを発揮するためには全身の力を連動させ、ロスなく全身に伝えることです。ただし、体幹が強いけど、動きが出ない選手はパフォーマンスに繋がりません。そのため、「柔軟性」と「強さ」が両立している体幹を作ることが必要です。体幹トレーニングは体幹の動き作り(ストレッチなど)とセットが鉄則です。この両立した体幹を向上させることで、下記の効果があります。
- 全身の動きが安定し、瞬発力や反応速度が上がる
- 体のブレがなくなり、どんな姿勢でも安定してボールに対応できる
- ジャンプ力が向上し、ブロックやスパイクに有利になる
- アタックやスパイク、サーブなどダイレクトに力をボールに乗せることができ、威力が向上
- 空中バランスが安定するため、スパイクやレシーブの精度が上がる
- レシーブやトスなどの安定性と精度が上がる
- ブロックなどぶつかったときにバランスが崩れにくくなる
- 無理な動きが無くなり、怪我のリスクが減る
- 呼吸をするための筋肉を鍛えることで、姿勢の改善・呼吸がしやすくなり、持久力が上がる
- バランス力がが上がる
- トレーニングの効率を高める
体幹を中心とした、様々な筋肉を鍛えることで復帰後のパフォーマンスアップのために頑張りましょう!
必ず医師に、一つ一つのメニューの開始時期の確認と、許可を得てから行ってください。
3分体幹ストレッチ
体幹多軸ストレッチ
効果大!自宅で体幹トレーニング3選
概要欄に詳しい解説動画があります
【背筋】スパイク ブロック技術向上のための広背筋 体幹筋トレ【元ビーチバレー日本代表】
【超簡単!体幹トレーニング】家でテレビを見ながらできる!
家トレ6分【中級レベル】腹筋・体幹トレーニング
⑤心肺機能(体力)トレーニング
怪我をして1ヶ月休養すると、以前の心肺機能(体力)を取り戻すのに1~2ヶ月かかると言われています。早期復帰を目指す人にとってこの期間は痛手です。心肺機能が低下すると、体内の酸素量が低下しパフォーマンスの低下、心拍出力の低下によりすぐ疲れやすくなります。そのため足を怪我していてもできる心肺機能トレーニングをすることで、早期復帰を目指し、怪我前よりもレベルアップした体を手に入れましょう!
※痛みが出る場合はすぐに止めてください
エアロバイク
エアロバイクは怪我によって走れない方でも、安全に太ももやお尻の筋肉、心肺機能(体力)を鍛えられます。自宅にエアロバイクがあるという方はなかなかいないはずなので、ジムなどで利用する時には毎回足の位置やサドルの位置を確認しておきましょう。正しい位置を知りたい時には管理人さんなどに聞くのが一番。間違った位置で行ってしまうと、足への負担が大きくなってしまいます。以下が具体的なメニューです。
- 400mインターバル走を想定
60秒 × 10セット リカバリー45秒
- 1000mインターバル走を想定
180秒 × 5セット リカバリー60秒
ペダルの重さについては、脈拍が170程度まで上がる重さに設定してください
水泳
水泳は全身運動のため、全身の筋肉、心肺機能を鍛えることができます。また、水圧の力でマッサージ効果もあり、疲労の回復にも役立ちます。足が痛い場合は、足にビート板を挟んで手だけで前に進むようにすれば、効果があります。アスリートもプールトレーニングを活用しているので、非常に有効です。以下が具体的なメニューです。
- クロールで25m
10本〜30本ペース リカバリー30秒
- クロールで50m
5本〜15本ペース リカバリー60秒
目安は8〜9割の力で泳いでください。設定タイムを決めてもいいでしょう。