前十字靭帯損傷 _ 膝
(後十字靭帯、内側側副靭帯、外側側副靭帯)
受傷時、多くの場合「プチッ」「グキッ」などの音を伴うことがあります。関節内に出血が起こるため、数時間で膝関節周囲が大きく腫れます。痛みのため動けなくなり、膝関節の曲げ伸ばしが困難になります。受傷後の症状として「膝がぐらぐらする」「膝に力が入らない」「膝が完全に伸びない、正座ができない」「スポーツ復帰して何度も膝を外してしまう」「膝が腫れて、熱を持つ」などがあります。また、前十字靭帯損傷以外に、後十字靭帯・内側側副靭帯・外側側副靭帯の3つの靭帯損傷があります。
前十字靭帯損傷から早期復帰
するために
術後では、方向転換・ジャンプ・着地・カッティング・減速動作などの動作の獲得が最も難しいと言われています。これらは損傷した膝の不安定性や筋力の回復の程度が動作に影響します。膝関節の不安定性が低下したままだと横方向への動作が特に困難になります。筋力に関しては、健側の80~90%程度の回復がスポーツ復帰に望ましいと言われています。問題なくプレーする為には、筋力の回復がとても重要になります。
筋力のアンバランス
大腿四頭筋とハムストリングスの筋力のバランスは、ケガを予防する上で大切です。一般に、大腿四頭筋のほうがハムストリングスに比べて強いですきく、ハムストリングスの筋力が大腿四頭筋の65から70%は必要といわれています。その割合が低くなると前十字靭帯損傷のリスクが増えます。
体幹の筋力
体幹の筋肉とは、骨盤に起点、終点を持っている筋肉のことを言います。おなかの筋肉というと、割れる筋肉を思い浮かべると思いますが、スポーツ医学の観点から言うと、大事なのは、割れていることではなく、その下に隠れている、腹横筋という筋肉です。この筋肉は、Core をがっちりと固定してくれます。腹斜筋とともに、この筋肉がしっかりしていないと、手足が効率よく使えません。また、前十字靭帯損傷を含む下半身の怪我とこの筋肉の筋力低下の関連性も研究で明らかにされています。
体幹の必要性
ジャンプの着地やカッティング動作は体幹(上半身)と下肢が連動した動きを行うため、それらが協調した動きが求められます。しかし、筋力が不十分であったり、うまく体が使えていないと、膝が捻じれた姿勢(いわゆるknee-in toe-out)になり、損傷のリスクが高くなってしまいます。具体的に言うと、上半身が右側へ傾いた時、下肢はバランスをとろうとして反対の方向へ動きます。つまり、右膝は内側へ動き、損傷しやすい姿勢を強いられてしまいます。したがって、動作時の体幹のふらつきが靭帯損傷のリスクを高めることにつながります。
前十字靭帯損傷からの早期復帰
プログラム4選
①膝周りのケア
ひざ周りが硬くなると動きが悪くなるため、マッサージをすることで動きをスムーズにさせます。
- ひざ周りのマッサージ -
②ストレッチ
膝の柔軟性だけでなく、膝の動きをスムーズにするためには、太もも・すね・ふくらはぎの柔軟性が必要です。
- 太ももの前側と膝を伸ばすストレッチ -
- 壁に片手をついて立ち、片足の膝を曲げ、つま先をつかみます
- つま先をお尻の方へ引き寄せ、太ももの前側を伸ばします
- 息を吐きながら30秒キープします
- 反対側も同様に行い、左右2〜3セット行います
ー すねの前側とふくらはぎのストレッチ ー
- 床に座って両足を伸ばします
- つま先をゆっくりと遠くに伸ばして、すねを伸ばします
- つま先をゆっくりと手前に引き寄せ、ふくらはぎを伸ばします
- 2〜3を10回繰り返します
③トレーニング
ここからが本番です。膝だけでなく、関連する様々な筋肉を鍛えることで再発防止・復帰後のパフォーマンスアップのために頑張りましょう!
※①②を行うこで③の効果がアップするので
①→②→③の順番で行ってください
初期(0-4週)
術後4週までは、移植した腱を保護しながら、痛みや炎症の管理、立ち上がり・歩行の再獲得、膝関節の可動域向上、大腿四頭筋の筋力向上を目標にリハビリを行います。
痛みや炎症のに対しては、医師にご相談ください。立ち上がり・歩行の再獲得に対しては、手術の影響で体重をかけることに恐怖や痛みを感じて左右均等に体重をかけることができなかったり、必要以上に力んでしまったりするため忘れてしまった感覚を取り戻しましょう。
- 0:55 足部スライド・膝抱え運動
- 1:54 膝伸展運動
- 2:36 アクティブSLR
- 3:15 セラバンドエクササイズ(大殿筋&ハムストリングス)
- 4:00 セラバンドエクササイズ(中殿筋)
- 4:49 カーフレイズ (ひらめ筋)
- 5:24 カーフレイズ (腓腹筋)
- 5:54 前後ステップ
- 6:48 ハーフスクワット
- 7:55 Knee Bend Walking
- 8:36 片脚立位バランス練習
- 8:59 片脚立位(不良肢位)
- 9:23 リハビリ後RICE処置①
- 10:18 リハビリ後RICE処置②
中期(5-12週)
膝関節の屈曲伸展の正常な動きの獲得、痛みなく歩行ができる、日常生活動作において正常な神経-筋コントロールを再獲得することが目的となります。また、手術した側の大腿四頭筋の筋力が手術していない側と比較して60%まで改善するように、段階的に筋力増強練習をしていきます。
膝関節の屈曲伸展の正常な動きの獲得に対しては、継続してお皿周りの柔軟性に努めることと、再建靭帯の負担を見ながらハムストリングスや大腿四頭筋のストレッチを行います
- 1:11 片脚立位バランス(不安定型)
- 1:49 固有感覚・神経-筋肉トレーニング
- 2:47 スプリットスクワット
- 3:19 セラバンドスクワット
- 4:07 体幹トレーニング(初級)
- 4:39 体幹トレーニング(中級)
- 5:13 Side Knee Band Walking
- 5:59 フォワードランジ
- 6:29 サイドランジ
- 7:03 ブリッジ(膝屈曲位)
- 7:54 ブリッジ(膝伸展位)
- 8:56 レッグカール(9週以降)
- 9:23 リハビリ後RICE処置①
- 10:18 リハビリ後RICE処置②
中期での体幹トレーニングを始める場合、回数・セット数を増やす場合は、医師やリハビリ担当者と相談して行うようにしましょう。
後期(13-20週)
後期では、再建した靭帯が安定してくる時期です。そのため、エクササイズの量と質を増やして筋力向上に努めます。可動域測定と筋力測定を行い、支障のない可動域と健側比60%を獲得したらランニングを開始して行きます。動作の難易度は両脚から片脚へと移行していきます。合わせて、これまで獲得した膝の動きを維持するためにもストレッチングを継続して行っていきます。
- 0:31 ブルガリアンスクワット
- 1:44 ツイスティング
- 2:13 ツイステインング&クロスオーバー
- 2:54 ダウンスクワット
- 3:30 片脚ランディング
- 4:13 もも上げ動作(脚の入れ替え学習)
- 4:55 ジャンプアップ&ダウン
- 5:34 ランニング&ストップ
- 6:02 リハビリ後RICE処置①
- 6:57 リハビリ後RICE処置②
後期での体幹トレーニングは、下の1番目の動画(中級編7分)から始めてください。17週目から2番目の動画(スポーツ・アスリート5種目!!)を行ってください。ケガをする前以上のパフォーマンスをするために、回数・セット数を増やせるように頑張りましょう!
復帰準備期(21-32週)
手術した膝関節の動きに制限がなくなり、受傷する前と同様に筋力の回復に努める時期です。この時期より、スポーツ復帰に向けて競技特性に沿った動作の練習を開始します。具体的には、サッカーやバスケットボールであれば、ジャンプアップやリアクション(コンタクト)練習、カッティングや方向転換、パスやドリブルなどを行います。バレーボールなどであれば、スパイクやブロックなどの競技に合わせた練習を進めていきます。
- 0:52 片脚ポップオン
- 1:29 片脚ジャンプアップ&ダウン
- 2:08 ジャンプダウン&カッティング
- 2:43 ピボット&後方方向転換
- 3:20 ジグザグ走行
- 3:47 片脚方向転換ランディング
- 4:31 ラダートレーニング①
- 4:45 ラダートレーニング②
- 5:07 ラダートレーニング③
- 5:28 ラダートレーニング④
- 5:50 ラダートレーニング⑤
- 6:08 ラダートレーニング⑥
- 6:29 両脚方向転換ランディング
- 6:59 ジャンプアップ&リアクション(右)
- 7:16 ジャンプアップ&リアクション(前)
- 7:37 ジャンプアップ&リアクション(左)
- 7:55 片脚ホッピング(前方)
- 8:25 片脚ホッピング(左右)
④メンタル
スポーツの世界で優れたパフォーマンスを発揮するためには、メンタル(心)を鍛えることが当たり前になっており、リハビリ時期でも同じことがいえます。リハビリをより効果的に・迅速に復帰する・ケガをする前以上のパフォーマンスのために頑張っていきましょう!