内側側副靭帯損傷・断裂 (野球肘)
内側側副靭帯は肘の内側にある 前斜走靭帯、後斜走靭帯、横走靭帯の3つの帯からなる靭帯で、上腕骨と尺骨を主に繋げています。多くの場合は、前斜走靭帯の単独の損傷がみられますが、複数の靭帯を損傷していると関節が不安定になってしまうので、競技復帰には手術(例:トミー・ジョン手術)という選択肢も強くなってしまうケガです。
原因として疲労の蓄積・ボールの投げ過ぎなどの障害性、転倒して手をつくなどの外傷性があります。
スポーツ復帰までに、軽度であれば2~4週間、中等度で3~4ヶ月、重度で10~12ヶ月かかり、重度の場合手術を行うことがあります。
症状
痛めた瞬間に、ブチっと何かが弾けるような音が聞こえる場合があります。
損傷がひどくない場合は動かしたり触らなければ痛みは出にくいものですが、完全断裂や部分断裂になると動かさなくても痛みが出ることや寝ている時に痛みが出ることがあります。下記が主な症状です。
- 肘を曲げ伸ばしすると痛む
- 肘の内側を押すと痛む
- 投球時、ボールを打つときのインパクト時に痛む
- 物を持つときに痛む
- 肘に不安定感がある、関節が緩い感じがする
- 肘の内側に腫れが起こる
- 可動域が低下する
原因
- 過度の投球
- 不適切な投球フォーム
- 正しくないフォームで投げ続けたり、肩や肩甲骨周りの筋肉不足
- 休息不足
- 筋力と柔軟性の不足
- 過去の肘のケガによる靭帯の弱み
- 成長期の運動負荷
- 転倒
治療
①保存療法
痛みや可動域制限が軽度であれば、数週間〜数ヶ月の投球中止によって肘の痛みが軽快することが多いです。投球中止のあいだは、運動やストレッチなどのリハビリを行います。1球で急に痛みが出た場合や痛みが強い場合は固定具を用いて肘を安静に保ちます。その間投球を中止し、フォームや体の硬さなどに問題があればこれを改善します。
- 運動療法…肘をはじめとした肩や肩甲骨などの柔軟性改善を行います。内側側副靭帯損傷を起こしてしまうと肘が不安定になるため、肘周囲の筋力強化を行い肘の安定性を高めます。その後、肘への負担を考慮したフォーム指導を行っていきます
- 再生医療…自己組織を材料に病気や事故で失った組織・臓器の機能回復が期待出来る、先進的な治療法です。体に負担が少なく、外科的な手術に比べて治癒までの期間が短く済むなどのメリットの他、痛みの根本的治療にもなり得る方法であると考えています。保険適応外ではありますが、検討される方は年々増加しています
- 運動器カテーテル治療…カテーテルを痛みの原因である血管がある場所の近くに抗生物質でできた薬剤を注入し、もやもや血管を死滅させます
- 体外衝撃波治療…衝撃波を患部に照射することで慢性的な痛みの軽減、組織の再生を促します
②手術療法
保存療法で十分な効果が得られない場合には、手術を検討することがあります。
- 靭帯縫合術…切れてしまった靭帯を縫い合わせる手術です
- 靱帯再建術…肘関節内側側副靱帯を手関節の腱を用いて再建する方法です。緩んだ内側側副靱帯の間に腱を移植します。2時間程度の手術です。トミージョン手術は、靭帯再建術の一種です
整形外科で治療を受ける
まずは、すぐに整形外科で診断を受けましょう。
軽度の痛み以上の症状がある場合は、レントゲンやMRIなど精密検査を行い、医師の診断を受けることが重要です。正しい治療・リハビリを受けずにいると受傷した箇所は正しく治癒せず、可動域の低下・関節の不安定さが残り、結果としてより悪化を繰り返してしまいます。
接骨院、整骨院で治療を受ける
接骨院、整骨院で治療を受けることで早期回復を促すことができます。症状の解消だけではなく、体全体のバランスを見て原因を追及するため、体全体の不調を取り除くことができます。
また、関連する筋肉の柔軟性を高める為にそれらの筋肉をほぐす手技や、電療機器を使った施術を行います。
RICE処置
安静(Rest)
損傷部を中心に動かないように包帯などで固定します。安静は局所のみならず全身的なものも含み、体内の循環が活発にならないようにします。
冷却(Ice)
患部を冷やすことで血管が収縮し血流を減少させ内出血を抑えます。さらに、患部周囲の組織の代謝を低下させることにより炎症を抑えることができます。1回のアイシングの時間としては15分〜20分が目安です。ただし、凍傷には十分注意してください。
圧迫(Compression)
患部を包帯やサポーターまたはテーピングなどで圧迫することにより内出血による腫れを抑えます。
挙上(Elevation)
患部を心臓よりも高い位置に上げることにより血液の環流を助けたり、局所の内出血を抑えます。
アイシング
急性期(怪我や損傷の直後から3日間)に患部を冷却することで炎症による痛みや腫れ、熱感を軽減し、症状悪化を防ぐ方法です。特に急性の症状である熱を持った痛みに対して効果的です。
アイシングは、氷嚢やを使って患部を冷やし、前述の炎症による痛みや腫れ、熱感の軽減を目指すと同時に、これらの症状悪化を防ぐことを目的としています。
- 氷水を入れる袋1つを用意します
- 氷水を袋に入れて氷嚢を作ります
- 患部に氷嚢をのせて20分間冷やします
- 20分後、タオルと氷嚢を患部から離し、体温が自然に元に戻るのを待ちます。
- 2時間おきに1〜4を行います。
ここまでを1セットとし、1日に2~3セットを3日間行ってください。
内側側副靭帯損傷・断裂から早期復帰するために
1. すぐに適切な治療を受けること
すぐに治療を受けないと重症化する可能性が高いです。重症化することで治療期間が何ヶ月も長引き、手術が必要になります。
また、適切な治療を受けることも重要です。適切な治療が受けられていなければいつまで経っても良くなりません。ある病院では投球動作の禁止、痛みが引くまで経過観察という提案が一向に良くならず。別の病院では、骨にも異常が見つかり固定をしないと治らないということが判明。このようなケースは実際にあるので、一向に良くならない場合は別の病院に診断してもらいましょう。特に肘の専門医、または得意とする病院へ行くことを強くお勧めします。
2. 投球の中止、安静
投球を中止して肘を安静にすることが最も重要で、軽度の場合はアイシングも効果的です。焦って投球をしてしまったり、肘に負担がかかる運動をしてしまうと重症化し、より治りが遅くなります。焦る気持ちを抑えケアに専念しましょう。休むのも練習の内です。
3. 投球フォームの改善
肘に負担がかかるフォームで投げていれば、投球数が少なくても発症します。
様々なタイプで投球フォームが悪くなっている場合がありますが、主な悪いフォームとして、テイクバックのときに両肩よりも肘が下がっている、リリースのときの肘の突き出し、リリース後の踏み込み足への体重移動が不十分などがあります。
早い段階から投球フォームの改善をしておくことで、新しいフォームを安定させることができ、より早くスムーズにスポーツに復帰できます。
4. 全身の柔軟性の向上
関節の可動域を正常に戻し柔軟性を上げて強化していくことで、症状の改善・再発防止になります。柔軟性の向上といっても肘だけの問題ではありません。体幹、股関節、肩周りなどの全身の柔軟性です。投球動作は、全身の動作です。全身がしなやかだと全身を使って良い球を投げることが出来ます。
また、柔軟性が低下しているせいで悪い投球フォームになっていることもあるので、マッサージやストレッチで全身の柔軟性を向上させましょう。
内側側副靭帯損傷・断裂からの早期復帰
プログラム6選
いよいよリハビリ・トレーニングに入りますが、肘の状態、手術をしたかしなかったかによって、やってはいけないものがあります。一つ一つのリハビリ・トレーニングを医師やリハビリ担当者と十分に相談して行いましょう。
また、痛みを感じない範囲で行うよう注意してください。
①マッサージ
マッサージで筋肉の張り、緊張状態を和らげることで血液の流れを良くし、回復を早めることができます。患部の周辺や関連するところを軽くもむ程度で痛みを抑えることができ、筋肉と関節の動きが良くなります。お風呂上りにやると、固まった筋肉が柔らかくなりより効果的です。
痛む箇所は避けるようにし、痛みが出るメニューはやらないようにして下さい。
フォームローラーを使ったマッサージ
ストレッチより効く内側型野球肘の治し方
1番早く野球肘を治す方法 4:30 から始まります
マッサージガンを使ったマッサージ 1:57 から始まります
②ストレッチ
肘が痛いと肘周辺のストレッチのみ必要だと思いがちですが、肘に連なる体幹や首、股関節など全身のストレッチをすることで、肘への負担をより軽減することができます。また、ストレッチを行うことで可動域の確保、血流が改善し疲労が軽減されるため競技のパフォーマンスも向上します。お風呂上りにやると、固まった筋肉が柔らかくなりより効果的です。
※人それぞれ肘の状態により、「このストレッチはやっていい」という時期と「このストレッチはやってはいけない」という時期があります。一つ一つのストレッチを医師やリハビリ担当者と必ず相談して行いましょう
元プロ野球トレーナーの肘ストレッチ 1:20 から始まります
肘が痛い方にオススメのストレッチ
ピッチングラボのストレッチ2種 6:47 から始まります
肘の内側が痛いときは指ストレッチ 2:20 から始まります
【毎日5分ストレッチ】DAY1.野球に必要な柔軟性
上記はDAY1のストレッチです。DAY1~DAY5の動画があるので、毎日別の動画でストレッチを行なってください。
③筋力トレーニング
一般的に結合組織が柔らかい人は、肘の靭帯の張力が不足し、怪我をしやすくなることがあります。つまり、筋肉を鍛えることが重要なのです。筋肉を鍛えることで体への負担を減らす上に、血流を良くすることで肘の状態が良くなりやすく、競技へのパフォーマンスも向上します。
※人それぞれ肘の状態により、「この筋トレはやっていい」という時期と「この筋トレはやってはいけない」という時期があります。一つ一つの筋トレを医師やリハビリ担当者と必ず相談して行いましょう。
【肘の内側側副靭帯】を守るトレーニング
肘内側副靭帯損傷の自宅でできるリハビリ
体幹トレーニング
ここからは体幹を中心とした筋力トレーニングです。体幹とは、頭と手足を除いた胴体(背、腹まわり)のことです。高いパフォーマンスを発揮するためには全身の力を連動させ、ロスなくボールに伝えることです。ただし、体幹が強いけど、動きが出ない選手はパフォーマンスに繋がりません。そのため、「柔軟性」と「強さ」が両立している体幹を作ることが必要です。体幹トレーニングは体幹の動き作り(ストレッチなど)とセットが鉄則です。この両立した体幹を向上させるにつれ、
ピッチャーであれば
- 球速が上がる
- コントロールが良くなる
- フォームが安定する
バッターであれば
- 軽く振っているように見えるのに飛距離が伸びる
- あらゆるコースに対応できる
- 安定してミートできる
- 振りに行ってバットを止める(スイングキャンセル)
などの効果があります。
また、例に挙げると、東北楽天ゴールデンイーグルス・岸孝之投手。
細身でものすごいボールを投げるタイプの典型例と言える投手ですが、その要因の一つが体幹。
決して固めるのではなく、非常にしなやかに使っています。決して筋骨隆々でなくとも、体幹の操作レベルによってそれを補い、プロでストレートが通用する好例です。
体幹を中心とした、様々な筋肉を鍛えることで復帰後のパフォーマンスアップのために頑張りましう!
※患部に痛みが出る場合はすぐに止めてください
3分体幹ストレッチ
体幹多軸ストレッチ
6分体幹トレーニング
体幹・股関節・骨盤トレーニング
阪神選手の体幹トレーニング
ジャンプなど大きな動作もあるので、怪我の影響がない範囲で行ってください
④野球トレーニング
ここからは怪我をしていてもできる野球トレーニングです。ここで覚えていただきたい言葉が「患部外トレーニング」です。
患部外トレーニングとは、怪我している部位以外のトレーニングを行うことです。怪我をしている間でも動かせる部位でバッティング、ピッチング、守備などの練習を行うことで、復帰をスムーズにすることができます。また、怪我をしているときにこそ強化できる部分があったり、新たなステップアップや、今まで気づかなかった新たな発見があるものです。
復帰後のパフォーマンスアップのために頑張りましょう!
※無理はしないでください
※痛みが出る場合はすぐに止めてください
⑤心肺機能(体力)トレーニング
怪我をして1ヶ月休養すると、以前の心肺機能(体力)を取り戻すのに1~2ヶ月かかると言われています。早期復帰を目指す人にとってこの期間は痛手です。心肺機能が低下すると、体内の酸素量が低下しパフォーマンスの低下、心拍出力の低下によりすぐ疲れやすくなります。そのため足を怪我していてもできる心肺機能トレーニングをすることで、早期復帰を目指し、怪我前よりもレベルアップした体を手に入れましょう!
※痛みが出る場合はすぐに止めてください
エアロバイク
エアロバイクは怪我によって走れない方でも、安全に太ももやお尻の筋肉、心肺機能(体力)を鍛えられます。自宅にエアロバイクがあるという方はなかなかいないはずなので、ジムなどで利用する時には毎回足の位置やサドルの位置を確認しておきましょう。正しい位置を知りたい時には管理人さんなどに聞くのが一番。間違った位置で行ってしまうと、足への負担が大きくなってしまいます。以下が具体的なメニューです。
- 400mインターバル走を想定
60秒 × 10セット リカバリー45秒
- 1000mインターバル走を想定
180秒 × 5セット リカバリー60秒
ペダルの重さについては、脈拍が170程度まで上がる重さに設定してください
水泳
水泳は全身運動のため、全身の筋肉、心肺機能を鍛えることができます。また、水圧の力でマッサージ効果もあり、疲労の回復にも役立ちます。足が痛い場合は、足にビート板を挟んで手だけで前に進むようにすれば、効果があります。アスリートもプールトレーニングを活用しているので、非常に有効です。以下が具体的なメニューです。
- クロールで25m
10本〜30本ペース リカバリー30秒
- クロールで50m
5本〜15本ペース リカバリー60秒
目安は8〜9割の力で泳いでください。設定タイムを決めてもいいでしょう。
⑥メンタル
スポーツの世界で優れたパフォーマンスを発揮するためには、メンタル(心)を鍛えることが当たり前になっており、リハビリ時期でも同じことがいえます。リハビリをより効果的に・迅速に復帰する・ケガをする前以上のパフォーマンスのために頑張っていきましょう!